障害福祉事業の社会保険料負担を抑えるための合法的な対策5選
「毎月の社会保険料が重くて、利益がほとんど残らない…」——障害福祉事業の経営者様から、最も多くいただくご相談のひとつです。この記事では、法律の範囲内で社会保険料の負担を抑える具体的な方法を5つご紹介します。知っているか知らないかで年間数十万〜百万円以上の差が出ることもありますので、ぜひ最後までお読みください。
なぜ障害福祉事業は社会保険料の負担が大きいのか
障害福祉事業は、そもそも「人件費の比率が高い」という構造的な特徴があります。就労継続支援A型・B型、放課後等デイサービス、グループホームのいずれも、人員配置基準が定められているため、一定数のスタッフを雇わなければ運営できません。
社会保険料(健康保険・厚生年金)は、従業員の給与額に応じて会社側も約15%の負担が発生します。つまり、月給25万円のスタッフが10名いれば、会社負担だけで毎月約37万円、年間では450万円近くにもなるのです。
報酬単価が公定価格で決まっている障害福祉事業において、この負担は非常に大きいといえます。だからこそ、合法的な範囲でできる対策を一つひとつ積み重ねることが大切です。
対策①:役員報酬の設定を見直す
法人の代表者や役員の報酬は、社会保険料の計算ベースになります。役員報酬を必要以上に高く設定すると、その分だけ社会保険料も増えます。
たとえば、役員報酬を月額50万円から40万円に引き下げるだけで、社会保険料の会社負担は年間で約18万円軽減されます。もちろん、役員個人の手取りにも影響しますので、「法人税」「所得税」「社会保険料」のバランスを見てトータルで最も有利になる金額を設定することがポイントです。
なお、役員報酬は原則として期首から3か月以内に決定し、期中は変更できません。決算前にしっかりシミュレーションしておくことが重要です。
賃貸自宅の「社宅化」で実質手取りを維持したまま役員報酬を下げる
「役員報酬を下げたいけど、個人の手取りが減るのは困る…」という方に最も効果が大きいのが、賃貸自宅を社宅扱いに切り替える方法です。
役員が個人で借りている自宅マンション・アパートの賃貸契約を会社名義に変更し、会社が社宅として役員に貸し付ける形に組み直します。家賃の一部を会社の経費(地代家賃)に振り替えられるため、その分だけ役員報酬を下げても実質的な手取りは変わらない仕組みです。
手続きの流れ
- 役員個人の賃貸契約を会社名義へ切り替える(または会社が新たに契約)
- 会社が大家へ家賃を全額支払う(地代家賃として経費計上)
- 役員は会社へ「社宅家賃」を支払う
役員負担額の目安|まずは「家賃の50%」が安全ライン
社宅家賃を低く設定しすぎると「現物給与」とみなされて給与課税の対象になりますが、一般的には会社が不動産会社(大家)に支払う家賃の50%以上を役員が負担していれば、税務上の問題は生じないとされています。実務でも、この「家賃の50%ルール」を安全ラインとして採用するケースが多くあります。
家賃15万円の物件なら、役員が社宅家賃として月7.5万円を会社に支払えば、残り7.5万円相当を会社の経費として処理できる計算です。
家賃15万円のマンションを50%ルールで社宅化した場合
| 項目 | 通常の役員報酬 | 社宅化した場合 |
|---|---|---|
| 額面役員報酬 | 月50万円 | 月42.5万円 |
| 会社が支払う家賃 | 0円 | 15万円(経費) |
| 役員が支払う家賃 | 15万円(自己負担) | 7.5万円(社宅家賃) |
| 役員の実質手取り | 同等 | 同等 |
| 社会保険料(年・会社負担) | 約86万円 | 約76万円 |
役員の実質手取りを維持しながら、会社の社会保険料負担を年間約10万円削減できる計算です。本人負担分も含めると、年間20万円程度の軽減効果になります。
「賃貸料相当額」を正確に計算すれば、さらに役員負担を下げられる
「家賃の50%」は安全側に寄せた目安であり、国税庁の通達(所得税基本通達36-40 等)に基づいて正確に計算すれば、より低い役員負担額が認められるケースが多くあります。
特に小規模な住宅(法定耐用年数30年以下の建物で床面積132㎡以下、30年超の建物で99㎡以下)に該当する場合、次の①〜③の合計額が賃貸料相当額になります。
| 計算項目 | 計算式 |
|---|---|
| ① 建物部分 | (その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2% |
| ② 床面積部分 | 12円 ×(建物の総床面積㎡ ÷ 3.3㎡) |
| ③ 敷地部分 | (その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22% |
この式で計算すると、家賃の10〜20%程度の負担で済むケースもあり、社宅化による節税効果はさらに大きくなります。一方、小規模住宅に該当しない物件は「家主に支払う家賃の50%」と上記計算式(建物12%・敷地6%)のいずれか多い金額が賃貸料相当額となるため、結局50%以上が必要になることもあります。
実務上の進め方
- まずは「家賃の50%」を目安に試算し、社宅化の効果を概算する
- 削減効果が大きそうなら、税理士に依頼して正確な賃貸料相当額を計算する(固定資産税の課税標準額が必要)
- 社宅規程の整備・就業規則への反映と賃貸契約の名義変更を進める
「とりあえず50%」でも十分な節税効果はありますが、詳細計算をすれば本人負担をさらに下げられる可能性が高いため、税理士に試算を依頼することをおすすめします。
就業規則・社宅規程への反映も忘れずに
社宅制度を導入する際は、社内ルールとして「社宅規程」を整備し、その存在を就業規則に明記しておくことが重要です。就業規則に住宅貸与に関する条文がないまま役員にだけ社宅を貸し付けると、税務調査で「役員への個人的な利益供与(実質的な役員給与)」と判断されるリスクがあります。
整備のポイントは次のとおりです。
- 就業規則の福利厚生・諸手当の章に「会社が必要と認める者に社宅を貸与することがある」旨を追記する
- 別途「社宅規程」を作成し、貸与対象者の範囲・社宅家賃の算定方法・退去時の手続きなどを定める
- 役員のみを対象とする規程でも構わないが、対象者の選定基準を客観的に記載する
- 常時10人以上の従業員を雇用する事業所は、就業規則の変更を労働基準監督署へ届け出る
社労士・税理士と連携して整備すれば、税務・労務の両面で問題のない運用ができます。障害福祉事業所の場合、職員向けの福利厚生として「将来的に職員にも社宅制度を拡大する」前提で規程を作っておくと、人材確保の面でもメリットがあります。
注意点
- 役員から受け取る家賃が賃貸料相当額より低い場合、差額が給与課税の対象になります
- 大家の承諾がないと法人名義への変更ができないため、契約更新タイミングでの切り替えが現実的です
- 社宅規程の整備、家賃計算の根拠資料(固定資産税通知書のコピー等)の保管が必要です
- 床面積240㎡超の豪華社宅は計算式の適用がなく、通常支払うべき使用料が賃貸料相当額になります
- 現金で住宅手当を支給する形、または役員個人の契約のままだと「社宅の貸与」と認められず給与課税されます
対策②:賞与の支払い方を工夫する
社会保険料は毎月の給与だけでなく賞与にもかかりますが、厚生年金には「年度あたり150万円」という上限(標準賞与額の上限)があります。
この仕組みを活用して、毎月の給与を抑えつつ、賞与にまとめて支払うことで、年間トータルの社会保険料を抑えられるケースがあります。ただし、健康保険には年度573万円という別の上限がありますし、従業員のモチベーションや資金繰りへの影響も考慮する必要があります。
実際に効果が出るかは個々の状況によりますので、事前のシミュレーションが欠かせません。
対策③:パート・非常勤スタッフの労働時間を適切に管理する
2024年10月からの法改正で、従業員51人以上の事業所ではパートの社会保険加入要件が拡大されました。しかし、50人以下の事業所であれば、週の所定労働時間が正社員の4分の3未満のパートスタッフは、引き続き社会保険の加入対象外となります。
障害福祉事業では、短時間勤務の支援員やパート職員を多く雇用するケースが少なくありません。各スタッフの労働時間を適切に管理し、加入要件を正確に把握しておくことで、不必要な社会保険料の発生を防ぐことができます。
注意していただきたいのは、「社会保険に入れないようにするために労働時間を無理に減らす」のではなく、事業運営に合った勤務体系を組んだ結果として負担が最適化されることが大切だということです。
対策④:4月〜6月の残業を抑える
社会保険料の「標準報酬月額」は、毎年4月・5月・6月の3か月間の給与をもとに決定されます(定時決定)。この3か月に残業が多いと、実態よりも高い標準報酬月額が設定され、その後1年間の社会保険料が上がってしまいます。
障害福祉事業では、3月末の行政への実績報告や新年度準備で4月の残業が増えやすい傾向があります。可能であれば、この時期の業務を前倒しして3月中に終わらせる、もしくは業務を分散させる工夫をすることで、社会保険料の上昇を防げます。
事業所全体のシフト管理にも関わる話ですので、管理者の方と一緒に計画的に取り組んでいただくのがおすすめです。
対策⑤:法人と個人の使い分けを整理する
法人の代表者が個人名義で所有している車や事務所を、法人に適正な金額で賃貸するという方法もあります。たとえば、自己の所有物件の一部を事業所として使っている場合、法人から個人に家賃を支払う形にすれば、その分だけ役員報酬を下げることができます。
家賃として受け取る所得には社会保険料がかからないため、トータルの手取りを維持しながら社会保険料を抑えることが可能です。ただし、賃料は「世間相場に照らして適正な金額」でなければ税務上の問題が生じますので、必ず専門家に相談したうえで設定してください。
まとめ
障害福祉事業における社会保険料の負担軽減は、一つの対策だけで劇的に変わるものではありません。しかし、今回ご紹介した5つの方法を組み合わせることで、年間で数十万〜百万円以上の負担軽減につながるケースも珍しくありません。
大切なのは、「違法な社会保険逃れ」ではなく、制度を正しく理解したうえでの合法的な最適化です。事業の安定経営のために、ぜひ一度、自社の状況を見直してみてください。
障害福祉事業の税務・会計でお困りの方へ Hands On会計事務所では、初回相談を無料で承っております。 社会保険料のシミュレーションや役員報酬の最適設計など、事業所ごとの状況に合わせた具体的なアドバイスをいたします。 大阪府全域の障がい福祉事業者様からのご相談をお待ちしております。
