障害福祉事業の役員報酬はいくらが正解?節税と社保の最適バランスを税理士が解説
「役員報酬はいくらに設定すればお得なのか」は、法人化したばかりの障害福祉事業者から最も多くいただく質問です。役員報酬は法人税・所得税・社会保険料のすべてに影響するため、感覚で決めると損をしかねません。結論から言うと、最適額は「定期同額給与の要件を守りつつ、生活費・会社の利益見込み・社会保険料の上限を総合して、事業年度の開始前に決める」のが正解です。
役員報酬を経費にする条件は?(定期同額給与とは)
結論、役員報酬を全額経費(損金)にするには「定期同額給与」の要件を満たす必要があります。定期同額給与とは、1か月以下の一定の期間ごとに、毎回同じ額を支給する役員給与のことです。
主な要件は次のとおりです(国税庁 No.5211)。
- 1か月以下の一定の期間ごとに支給される
- 各支給時期の支給額が同額である
- 金額を改定する場合は、原則として事業年度開始の日から3か月以内に行う
ポイントは「期首から3か月以内に決めたら、その期はほぼ変えられない」という点です(国税庁の法令解釈による)。期の途中で「儲かったから増やす」「赤字だから減らす」と安易に動かすと、増額分などが損金不算入(経費にならない)となるおそれがあります。だからこそ、報酬額は事業年度が始まる前のシミュレーションが重要になります。
役員報酬を上げると社会保険料はどうなる?
結論、報酬を上げるほど健康保険・厚生年金の保険料も増えます。役員報酬が社会保険料の計算基礎(標準報酬月額)になるためです。
厚生年金保険料率は18.3%(労使合計)で固定されています(日本年金機構)。標準報酬月額をもとにした厚生年金保険料の概算は次のとおりです(保険料率18.3%・労使合計で試算した概算)。
| 月額役員報酬の目安 | 厚生年金保険料の概算(労使合計・月) |
|---|---|
| 30万円 | 約5.5万円 |
| 50万円 | 約9.1万円 |
| 65万円以上 | 約11.9万円(上限で頭打ち) |
※実際は等級区分で算定され、健康保険料(料率は都道府県・年度で変動)が別途かかります。あくまで概算です。
注目すべきは上限です。厚生年金は標準報酬月額65万円(報酬月額63.5万円以上)で保険料が頭打ちになります(日本年金機構)。つまり報酬をそれ以上に上げても厚生年金保険料は増えません。一方、所得税・住民税は累進課税なので、報酬が上がるほど個人の税負担は増え続けます。
(注:この上限額は、2027〜2029年度にかけて段階的に75万円まで引き上げられる予定です。)
なお、社会保険料そのものを抑える具体策は別テーマのため、ここでは「報酬を上げると社保も増える」という関係だけ押さえてください。
役員報酬はいくらが有利?負担の全体像(概算)
結論、「役員報酬を高くする=得」とは限りません。役員報酬を上げると会社の利益が減って法人税は下がりますが、その分だけ個人の所得税・住民税・社会保険料が増えるからです。お金の置き場所を「法人」と「個人」のどちらにするかの配分問題、とイメージするとわかりやすいです。
方向性を整理すると次のようになります。
| 役員報酬を | 法人税 | 個人の所得税・住民税 | 社会保険料 |
|---|---|---|---|
| 上げる | 減る | 増える(累進) | 増える(65万円まで) |
| 下げる | 増える | 減る | 減る |
判断材料となる税率の目安は以下です(いずれも概算で、税率・料率は年度で変わります)。
- 法人税:中小法人は所得年800万円以下の部分が15%(軽減税率の特例)、超える部分が23.2%(国税庁 No.5759)
- 所得税:5%〜45%の7段階の累進課税(国税庁 No.2260)。これに住民税(おおむね10%)が加わります
- 厚生年金:18.3%(労使合計・標準報酬月額65万円で上限/日本年金機構)
たとえば法人の所得が年800万円以下に収まりそうなら、法人税は15%で済むため「無理に報酬を増やして法人の利益を圧縮する」必要性は下がります。逆に利益が大きく出る見込みなら、報酬を厚めにして個人へ移す選択肢も検討します。具体的な金額は扶養・各種控除・自治体で変わるため、必ず自社の数字で試算してください。
役員報酬額を決める3つの基準とは?
結論、役員報酬は次の3つの基準を組み合わせて決めます。
- 個人の生活費を確保できるか:役員も生活者です。住宅ローンや教育費など、毎月必要な手取りを下回らない水準を最優先で確保します。
- 会社の利益見込みと法人税率:利益が年800万円以下に収まるかどうかで、法人に残す有利さが変わります。利益見込みから逆算して報酬を決めます。
- 将来の資金需要:設備投資・採用・運転資金など、近いうちに会社にお金を残したい予定があるなら、報酬は控えめにして法人に資金を蓄える判断もあります。
障害福祉事業は人件費比率が高く、利益が読みにくい時期もあります。さらに報酬(給付費)の入金は約2か月遅れるため、手元資金の余裕は特に重要です。開業初年度など利益見込みが立ちにくいときは、報酬を低めに設定し、翌期の期首改定で調整する方法も現実的です。
まとめ
役員報酬は、法人税・所得税・社会保険料の3つを総合して決める経営判断です。定期同額給与の要件により「期首から3か月以内に決めたら、その期はほぼ変えられない」という制約があるため、事業年度が始まる前のシミュレーションが欠かせません。生活費・利益見込み・将来の資金需要の3基準で、自社に合った金額を見つけましょう。法人化のタイミングや役員報酬の設計をまとめて相談したい方は障害福祉に強い税理士の選び方もあわせてご覧ください。
障害福祉に強い税理士に相談したい方は、Hands On会計事務所(大阪・障害福祉専門の税理士)の無料相談をご利用ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 役員報酬は途中で変更できますか?
A. 原則として、事業年度開始の日から3か月以内に改定した金額を、その期は毎月同額で支給し続ける必要があります。期の途中での増額・減額は、増額分などが損金不算入になるおそれがあるため、原則できないと考えてください(国税庁 No.5211)。
Q. 役員報酬は高いほど節税になりますか?
A. いいえ。報酬を上げると会社の法人税は下がりますが、個人の所得税・住民税(累進)と社会保険料が増えます。法人と個人のどちらにお金を置くかの配分問題なので、「高いほど得」とは限りません。
Q. 厚生年金保険料に上限はありますか?
A. あります。厚生年金は標準報酬月額65万円(報酬月額63.5万円以上)で保険料が頭打ちになります(日本年金機構)。ただしこの上限額は、2027〜2029年度にかけて段階的に75万円まで引き上げられる予定です。
Q. 開業初年度の役員報酬はどう決めればよいですか?
A. 利益見込みが立ちにくいため、まずは生活に必要な額を確保しつつ低めに設定し、翌期の期首(開始から3か月以内)で調整する方法が現実的です。障害福祉は給付費の入金が遅れる分、手元資金に余裕を持たせる発想が大切です。
参考リンク(公的機関)
執筆・監修:税理士 栗谷川 雄介(登録番号 第157826号)/Hands On会計事務所(税理士事務所・大阪府柏原市)
障害福祉事業者(就労継続支援A型・B型、放課後等デイサービス、児童発達支援、グループホームなど)の税務・会計・加算を専門に支援する税理士事務所です。最終更新日:2026年7月24日
