事業所の改修・設備投資は修繕費?資本的支出?障害福祉の減価償却と少額特例を税理士が解説
「トイレを多目的トイレに改修したけれど、修繕費でいいの?」——障害福祉事業所の改修や設備投資で、こうしたご相談をよくいただきます。同じ工事でも「修繕費」なら支出した年に全額を経費にでき、「資本的支出」なら資産として計上し数年かけて減価償却するため、その年の利益と納税額が大きく変わります。この記事では、修繕費と資本的支出の分け方、判定に迷ったときの国税庁の形式基準、少額減価償却の3つのライン、開業時の内装改修の扱い、税務調査での否認リスクまでを整理します。結論として、判定の軸は「原状回復・維持管理=修繕費」か「価値を高める・使用可能期間を延ばす=資本的支出」かであり、迷ったら国税庁の金額基準(20万円未満・おおむね3年周期・60万円未満・前期末取得価額の約10%以下)で機械的に判定できます。
修繕費と資本的支出とは?|まず「直す」か「良くする」かで分ける
修繕費とは、固定資産の維持管理や原状回復のために支出した金額で、その支出をした年(事業年度)に全額を経費(損金)にできるものです。 壊れた設備の修理、古くなった床の張り替え、外壁の再塗装など、「元の状態に戻す・機能を保つ」ための支出が典型です。
資本的支出とは、固定資産の使用可能期間を延ばしたり、価値を高めたりする支出で、その年に全額を経費にできず、資産として計上し減価償却していくものです。 建物への避難階段の取り付けなど、物理的に新しい部分を付け加える工事が典型例とされています(国税庁 No.5402)。
ポイントは、「修繕費」「改良費」といった名目ではなく、工事の中身が「原状回復」か「価値の向上」かという実質で判定する点です。
改修工事が修繕費か資本的支出かの判断に迷う場合は、障害福祉専門の税理士にご相談ください。初回無料相談はこちら
バリアフリー工事や内装改修は修繕費?資本的支出?
バリアフリー工事や内装改修は、原状回復にとどまるか、価値・機能を高めるかで修繕費と資本的支出に分かれます。 障害福祉事業所では判断に迷う工事が多いため、まず考え方を押さえましょう。
- 修繕費になりやすい例:破損した床材の張り替え、劣化した壁紙の貼り替え、既存設備の修理、退去時の原状回復など、「元に戻す・保つ」工事。
- 資本的支出になりやすい例:手すりやスロープの新設、多目的トイレの新設、間仕切りを増設して部屋を増やす、エレベーター設置など、「使い勝手・機能・価値を高める」工事。
たとえば「既存トイレの便器交換(同等品)」は修繕費寄り、「一般トイレを車椅子対応の多目的トイレに造り替える」は資本的支出寄りです。一つの工事に両方の性質が混ざる場合は、請求書の内訳で「原状回復部分」と「機能向上部分」を分けて判定します。細部は個別事情で取扱いが変わるため、大きな工事の前に顧問税理士か所轄の税務署にご確認ください。
判定に迷ったらどう分ける?|国税庁の形式基準
修繕費か資本的支出か実質で判断しきれないときは、国税庁が示す金額の形式基準で修繕費にできるかを判定します。 これは迷ったときの「セーフティネット」で、次の順で当てはめます(国税庁 No.5402/個人事業は No.1379)。
| 判定ステップ | 基準 | 取扱い |
|---|---|---|
| (1)少額基準 | 一つの工事が20万円未満 | 修繕費にできる |
| (2)周期基準 | おおむね3年以内の周期で行う修理・改良 | 修繕費にできる |
| (3)形式基準((1)(2)に当たらず区分が不明なとき) | 支出額が60万円未満、または前期末の取得価額のおおむね10%以下 | 修繕費にできる |
これでも区分が明らかにならない場合は、原則に戻って実質(価値の増加・使用可能期間の延長があるか)で判定します。金額基準は通達に基づくもので改定で見直されることがあるため、適用の際は最新の国税庁資料をご確認ください。
少額の設備投資はどこまで一括で経費にできる?|10万・20万・40万円の3ライン
設備・備品を買ったときにどこまで一括で経費にできるかは、取得価額に応じて「10万円未満・20万円未満・40万円未満」の3つのラインで決まります。 令和8年度税制改正により、少額減価償却資産の特例の基準額が30万円未満から40万円未満に引き上げられました。改修工事だけでなく、エアコン・パソコン・訓練用機器などの備品にも関わる重要な区分です。
| 取得価額(1つあたり) | 取扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額その年の経費(消耗品費など) | 国税庁 No.5403 |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等償却も選択可(今回の改正では変更なし) | 国税庁 No.2100 |
| 40万円未満(令和8年4月1日以後の取得等) | 中小企業者等の少額減価償却資産の特例(年間合計300万円まで全額経費)※青色申告が要件 | 国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」 |
40万円未満の特例は、青色申告をしている中小企業者等が使え、年間合計300万円までが上限です。令和8年度税制改正の内容は次のとおりです(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。
- 取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられました(令和8年4月1日以後に取得等をするものが対象)。
- 判定は「取得等をする日」で行います。 事業年度の開始日ではないため、施行日をまたぐ事業年度でも買った日で判定します。
- 対象法人から、常時使用する従業員数が400人を超える法人が除外されました(改正前は500人超が除外)。
- 年間合計300万円という上限は据置きです。基準額が上がったぶん、枠を早く使い切る点に注意してください。
- 適用期限が3年延長されました(改正前は令和8年3月31日まで、延長後は令和11年3月31日まで)。改正後の租税特別措置法第67条の5第1項に「令和十一年三月三十一日までの間に取得し…取得価額が四十万円未満であるもの」と明記されています(e-Gov法令検索)。
個人事業主についても、財務省「令和8年度税制改正の大綱」で「所得税についても同様とする」とされています。
見落としやすいのは、改修「工事」は少額特例に乗りにくい点です。工事が資本的支出と判定されると、通常は工事金額全体が「建物」や「建物附属設備」という一つの資産になり、金額も大きくなりがちで、10万〜40万円の少額判定を超えます。一方、工事と独立して据え付けるエアコンや器具備品は、1台ごとの取得価額で少額判定できる場合があります。少額特例の詳しい使い方は「障害福祉事業所の備品・消耗品費(少額減価償却)」、資本的支出になった工事の減価償却(耐用年数・送迎車両の扱い)は「障害福祉事業所の減価償却(送迎車両・設備)」をあわせてご覧ください。
設備投資の優遇税制(中小企業経営強化税制・投資促進税制)も変わった?
令和8年度税制改正では、中小企業経営強化税制と中小企業投資促進税制についても、工具・器具備品の取得価額要件が30万円以上から40万円以上に引き上げられました。 少額減価償却資産の特例が「40万円未満」で全額経費、優遇税制が「40万円以上」で特別償却・税額控除、という形で境目がそろった格好です。
| 制度 | 変更点 | 適用時期 |
|---|---|---|
| 中小企業経営強化税制(措法42の12の4) | 工具及び器具備品の取得価額要件が30万円以上から40万円以上に引上げ(措令27の12の4第2項) | 令和8年4月1日以後に取得等をする工具・器具備品 |
| 中小企業投資促進税制(措法42の6) | 工具の取得価額要件が「1台又は1基の取得価額が30万円以上の工具の合計額が120万円以上」から「40万円以上の工具の合計額が120万円以上」に変更(措令27の6第5項第2号) | 令和8年4月1日以後に終了する事業年度から。施行日をまたぐ事業年度には経過措置があり、取得等をする日で単体の取得価額要件を判定 |
出典:国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」。
注意したいのは、30万円台の工具・器具備品の扱いです。 これまで中小企業経営強化税制の対象だった取得価額30万円以上40万円未満の工具・器具備品は、令和8年4月1日以後の取得等では要件を満たさなくなります。一方で、同じ金額帯は少額減価償却資産の特例(40万円未満)で全額経費にできるようになったため、「優遇税制で特別償却を取る」から「少額特例で全額経費にする」へ、使う制度が切り替わると整理してください。
なお、経営強化税制・投資促進税制は経営力向上計画の認定など別途の手続きや対象設備の要件があります。適用を検討する場合は、着工・発注の前に中小企業庁の資料と顧問税理士でご確認ください。
開業時の内装・バリアフリー改修はどう処理する?
開業前に行った内装工事やバリアフリー改修は、「資産(減価償却)」になるものと「開業費(繰延資産)」になるものに分かれ、まとめて一括経費にはできないのが原則です。 開業準備で大きな支出が出るため、ここを誤ると開業初年度の申告でつまずきます。
- 建物・建物附属設備・器具備品にあたる内装・改修工事は、資本的支出と同様に資産計上し、耐用年数に応じて減価償却します。
- 資産に計上されない開業準備の費用(広告費や調査費など)は「開業費」という繰延資産にでき、任意のタイミングで償却できるため、黒字化した年にまとめて経費化する調整も可能です。
同じ「開業前の支出」でも、内装や設備そのものへの投資は減価償却、それ以外の準備費用は開業費と分けて考えるのが基本です。どちらに当たるかは工事内容や契約で変わるため、開業時の設備投資が大きい方は申告前に税理士へご相談ください。
「修繕費を装った資本的支出」はなぜ否認される?
税務調査では、本来は資本的支出(資産計上して減価償却すべきもの)を修繕費として一括で経費にしていないかが、必ずと言ってよいほど確認されます。 修繕費なら全額その年の経費になり利益を圧縮できるため、調査官が重点的に見るポイントです。
否認されやすいのは、大規模な内装のつくり替えや機能アップ工事を、金額の大きい「修繕費」一本で処理しているケースです。否認されると資産計上して数年かけて償却する扱いに引き直され、過大に経費計上していた年の所得が増えて、追徴税額に加えて過少申告加算税・延滞税がかかることもあります。
対策は、(1)請求書・見積書に作業内容の内訳を残す、(2)原状回復部分と機能向上部分を分けて金額を把握する、(3)迷うものは形式基準で根拠を残す、の3点です。調査官が見るポイントは「障害福祉事業の税務調査|5つのポイント」で詳しく解説しています。
改修・設備投資で事業者が今やるべきことは?
- 工事・設備購入の前に、「原状回復か/価値を高めるか」で修繕費・資本的支出のあたりを付ける。
- 請求書・見積書は、作業内容の内訳(原状回復部分と機能向上部分)がわかる形で発行してもらう。
- 一つの工事が20万円未満、または60万円未満・前期末取得価額の約10%以下に収まるかを確認する。
- 備品・設備は1つあたりの取得価額で10万・20万・40万円のどのラインかを確認し、青色申告なら40万円未満特例(年300万円まで)の枠を意識する。取得日が令和8年4月1日以後かどうかで基準額が変わる点に注意する。
- 開業時の大きな改修は「減価償却する資産」と「開業費」に分けて集計し、迷う大型工事は着工前に税理士か税務署へ確認する。
まとめ
- 修繕費は原状回復・維持管理の支出で全額その年の経費、資本的支出は価値を高める・使用可能期間を延ばす支出で資産計上して減価償却する——これが判定の基本軸です。
- 判定に迷ったら、20万円未満・おおむね3年周期・60万円未満・前期末取得価額の約10%以下という国税庁の形式基準で修繕費にできるか確認します(No.5402/No.1379)。
- 少額の設備投資は10万円未満(全額経費)・20万円未満(一括償却資産で3年均等)・40万円未満(青色の中小特例で年300万円まで)の3ラインで決まります。40万円未満への引上げは令和8年4月1日以後の取得等からで、判定は取得日で行います。
- 開業時の内装・バリアフリー改修は「減価償却する資産」と「開業費(繰延資産)」に分かれ、一括経費にはできないのが原則です。
- 税務調査では「修繕費を装った資本的支出」が重点的に見られるため、請求書の内訳と判定の根拠を必ず残しておきましょう。
よくある質問(FAQ)
Q. 障害福祉事業所のバリアフリー改修は修繕費として全額経費にできますか?
A. バリアフリー改修は、原状回復にとどまるなら修繕費ですが、段差解消・手すりやスロープの新設・多目的トイレ化など価値を高める工事は資本的支出となり、資産計上して減価償却するのが原則です。ただし一つの工事が20万円未満なら修繕費にできるなどの形式基準もあり、工事内容と金額で判定します。
Q. 修繕費と資本的支出の金額の判定基準はいくらですか?
A. 修繕費と資本的支出の判定では、一つの工事が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行う修理・改良は修繕費にできます。区分が明らかでないときは、支出額が60万円未満、または前期末の取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費にできます(国税庁No.5402/No.1379)。基準は最新資料でご確認ください。
Q. 障害福祉事業所で40万円未満の設備を買ったら全額経費にできますか?
A. 青色申告をしている中小企業者等であれば、令和8年4月1日以後に取得等をする取得価額40万円未満の減価償却資産は「中小企業者等の少額減価償却資産の特例」により、年間合計300万円までその年に全額経費にできます。令和8年3月31日までに取得等をしたものは従来どおり30万円未満で判定します(国税庁「令和8年度 法人税関係法令の改正の概要」)。
Q. 開業前に行った内装工事は開業費として一括で経費にできますか?
A. 開業前の内装工事のうち、建物附属設備や器具備品にあたるものは資産計上して減価償却するのが原則で、開業費としての一括経費にはできません。開業費(繰延資産)にできるのは、資産に計上されない開業準備の費用です。工事内容で扱いが変わるため、申告前に税理士へご確認ください。
Q. 修繕費を多めに計上すると税務調査で否認されますか?
A. 本来は資本的支出として資産計上・減価償却すべき工事を修繕費で一括経費にしていると、税務調査で否認され、過去の所得が増えて追徴課税や加算税・延滞税が生じることがあります。請求書に作業内容の内訳を残し、原状回復部分と機能向上部分を分けて判定根拠を残すことが有効です。
参考資料
- 国税庁|No.5402 修繕費とならないものの判定
- 国税庁|No.1379 修繕費とならないものの判定(所得税)
- 国税庁|令和8年度 法人税関係法令の改正の概要(PDF)
- 財務省|令和8年度税制改正の大綱(中小企業・農林水産業)
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Hands On会計事務所は、大阪府柏原市を拠点に、障害福祉事業者(就労継続支援A型・B型、放課後等デイサービス、児童発達支援、グループホームなど)を専門にサポートしている税理士事務所です。バリアフリー工事や内装改修が修繕費か資本的支出かの判定、少額減価償却(10万・20万・40万円のライン)や中小企業者等の少額減価償却資産特例の活用、開業時の内装・設備投資の資産計上と開業費の切り分け、税務調査で「修繕費を装った資本的支出」と指摘されないための証拠づくりまで、現場を知る税理士が一気通貫でお手伝いします。支援員としての現場経験をもとに、専門用語をかみくだいてご説明しますので、税務が苦手な方もご安心ください。個別支援計画AIや予約管理システムといったITツールは顧問先に無償でご提供しており、事務負担の軽減にもつながります。柏原市・八尾市・東大阪市・藤井寺市・羽曳野市・松原市・大阪市・堺市をはじめ大阪府全域に対応し、初回相談は無料です。まずはお気軽にお問い合わせください。
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執筆・監修:税理士 栗谷川 雄介(登録番号 第157826号)/Hands On会計事務所(税理士事務所・大阪府柏原市)
障害福祉事業者(就労継続支援A型・B型、放課後等デイサービス、児童発達支援、グループホームなど)の税務・会計・加算を専門に支援する税理士事務所です。最終更新日:2026年7月25日
