処遇改善加算の3要件をクリアするには?|年収460万円要件と令和8年6月改定を税理士が解説
「処遇改善加算の上位区分を取りたいけれど、何を整えればいいのかわからない」——障害福祉事業所の経営者・管理者の方から、こうしたご相談をよくいただきます。この記事では、福祉・介護職員等処遇改善加算(以下、処遇改善加算)の3要件と区分ごとの積み上がり方を整理します。結論として、必要なのはキャリアパス要件・月額賃金改善要件・職場環境等要件の3つで、令和8年6月の改定によりキャリアパス要件Ⅳの年収基準は440万円から460万円に引き上げられました。
処遇改善加算とは?|令和6年6月に3つの加算が一本化
処遇改善加算(福祉・介護職員等処遇改善加算)とは、職員の賃金改善に充てることを条件に、障害福祉サービスの報酬に上乗せされる加算です。 令和6年6月に旧3加算(処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算)が「福祉・介護職員等処遇改善加算」に一本化されました。区分はⅠからⅣの4段階で、Ⅰに近いほど加算率が高く、要件も多くなります。
受け取った加算額は、全額を職員の賃金改善に充てる必要があります。実績報告で賃金改善額が加算額を下回ると、その差額の返還が必要になります。一本化の経緯は「処遇改善加算の一本化で何が変わった?」で解説しています。
算定に必要な3つの要件とは?
処遇改善加算の算定に必要な3要件は、(1)キャリアパス要件(職員の任用・研修・昇給などの仕組み)、(2)月額賃金改善要件(改善分の一定割合を毎月の給与で支給すること)、(3)職場環境等要件(働きやすい職場づくりの取組)です。
区分との関係は「積み上げ式」です。区分Ⅳはキャリアパス要件Ⅰ・Ⅱに月額賃金改善要件と職場環境等要件を加えたもの、Ⅲはこれにキャリアパス要件Ⅲを加え、Ⅱはさらに要件Ⅳ、Ⅰはさらに要件Ⅴというように、上位区分ほど要件が増えていきます。
区分ごとに何を満たせばよい?|令和8年6月からの算定要件
令和8年6月からの算定要件は、次の表のとおりです。キャリアパス要件Ⅳの基準は「改善後賃金年額460万円」で、令和6年度改定時の440万円から引き上げられました(厚生労働省「令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について」)。
| 要件 | 加算Ⅳ | 加算Ⅲ | 加算Ⅱ | 加算Ⅰ |
|---|---|---|---|---|
| 賃金体系等の整備・研修の実施等(キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ)/加算Ⅳ相当額の2分の1以上を月額賃金で配分 | 必要 | 必要 | 必要 | 必要 |
| 昇給の仕組み(キャリアパス要件Ⅲ) | — | 必要 | 必要 | 必要 |
| 改善後賃金年額460万円(キャリアパス要件Ⅳ) | — | — | 必要(※) | 必要(※) |
| 経験・技能のある介護職員(キャリアパス要件Ⅴ) | — | — | — | 必要 |
| 職場環境等要件 | 区分ごとに1つ以上(生産性向上は2つ以上)+全体から8以上 | 同左 | 区分ごとに2つ以上(生産性向上は3つ以上)+全体から14以上 | 同左 |
※加算Ⅰ・Ⅱでは、職場環境等要件の「全体から14以上」または「キャリアパス要件Ⅳ(改善後賃金年額460万円)」のいずれかを満たしていればよいとされています。「年収460万円の職員を配置できないと上位区分が取れない」わけではありません。
なお、令和6年度改定まで説明されていた「小規模事業所は月額平均8万円以上の賃金改善でも可」という代替要件は、令和8年度改定の算定要件には示されていません。 代わりに上記の選択制が設けられています。最新の要件は必ず厚生労働省・こども家庭庁の資料と指定権者の案内でご確認ください。
キャリアパス要件ⅠからⅤは何を整える?
キャリアパス要件は、職員が働き続けられる仕組みを段階的に整えるための要件で、ⅠからⅤの5段階があります。
| 要件 | 整えること |
|---|---|
| Ⅰ | 職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系を定め、就業規則等の書面で整備し、全職員に周知する |
| Ⅱ | 研修の実施または研修機会の確保(資格取得支援など)と、その計画の策定 |
| Ⅲ | 経験・資格・評価などに応じて昇給する仕組みを設ける |
| Ⅳ | 経験・技能のある職員について、賃金改善後の見込年収が460万円以上となるよう設定する(令和8年6月から。加算Ⅰ・Ⅱでは職場環境等要件の全体14以上との選択制) |
| Ⅴ | 「福祉専門職員配置等加算」または「特定事業所加算」を届け出ていること |
ポイントは、Ⅰ・Ⅱが土台で、上位区分ほどⅢ・Ⅳ・Ⅴが積み上がることです。最初の一歩は、就業規則・賃金規程に任用要件・賃金体系・昇給の仕組みを明文化することです。
月額賃金改善要件とは?|一時金だけではダメ
月額賃金改善要件とは、加算Ⅳで見込まれる加算額の2分の1以上を、基本給または毎月決まって支払われる手当の改善に充てるという要件です。
つまり、賞与・一時金だけで配るのではなく、毎月の給与を底上げする必要があります。残りの部分は賞与・一時金で支給できますが、全額を一時金にすることはできません。誰にどう配るかの設計は「処遇改善加算の配分方法」で詳しく解説しています。
職場環境等要件とは?|区分ごとに取組を選ぶ
職場環境等要件とは、「入職促進」「資質の向上やキャリアアップ」「両立支援・多様な働き方の推進」「腰痛を含む心身の健康管理」「生産性向上のための業務改善」「やりがい・働きがいの醸成」の各区分から、定められた数以上の取組を実施する要件です。
令和8年6月からの必要数は次のとおりです。
- 加算Ⅲ・Ⅳ:区分ごとにそれぞれ1つ以上(生産性向上は2つ以上)+全体から8以上
- 加算Ⅰ・Ⅱ:区分ごとにそれぞれ2つ以上(生産性向上は3つ以上。うち「現場の課題の見える化」の取組は必須)+全体から14以上
加算Ⅰ・Ⅱでは、情報公表システム等で各項目ごとの具体的な取組内容を公表することが求められます。取組の数だけでなく「公表しているか」も要件になっている点にご注意ください。
令和8年度中の対応の誓約でも算定できる?
令和8年度の改定では、一定の要件について「令和8年度中に対応することの誓約」でも算定を開始できる猶予措置が設けられています。ただし実績報告書で対応の実施が確認され、未対応が判明した場合には加算額の一部または全部を返還させることとされています。
誓約で算定を開始できるのは、職場環境等要件の全体数、キャリアパス要件Ⅳ、令和8年度特例要件の一部などです。「今は要件を満たしていないが年度内に整える」という事業所でも算定を始められる一方、年度内に実施できなければ返還になります。 誓約して算定を開始した場合は、いつ・誰が・何を実施するかの工程表を作り、実績報告に備えて記録を残してください。
改定全体の内容(対象職員の拡大、加算Ⅰロ・Ⅱロの新設、相談支援への新設、サービス別の加算率)は「令和8年度の障害福祉報酬改定」で解説しています。
計画書と実績報告書はいつ出す?
- 処遇改善計画書:毎年度、加算を取り始める前に提出(4月・5月から算定する場合はおおむね4月15日までが目安)
- 実績報告書:年度(賃金改善実施期間)終了後に提出(翌年度の7月末ごろが目安)
提出先は指定権者(都道府県・指定都市・中核市など、事業所の指定をした自治体)です。実際の提出期限は自治体で異なるため、必ず指定権者の案内で確認してください。 実績報告で賃金改善額が加算額に届いていないと、差額の返還が必要になります。
税務・社会保険で気をつけることは?
職員に支給した処遇改善分は給与所得であり、源泉所得税・住民税・社会保険料・雇用保険料の対象になります。
- 賃金が上がると、事業所が負担する社会保険料(法定福利費)も増えます。この事業主負担の増加分は、賃金改善額の一部に算入してよいとされています。
- 職員から見ると、額面のおよそ2割が引かれて手取りは8割前後になります。額面別の目安は「処遇改善手当から税金はいくら引かれる?」の早見表をご覧ください。
- 「加算をもらって職員に配ったら税金や社会保険でどう変わるか」を見込んでおかないと、職員の手取りベースの設計がずれてしまいます。
3要件を整えるための実務ステップ
- 就業規則・賃金規程を確認する:任用要件・賃金体系(要件Ⅰ)、研修の実施と計画(要件Ⅱ)、昇給の仕組み(要件Ⅲ)が明文化されているかを点検します。
- 職場環境等要件の取組を棚卸しする:すでに実施している取組を各区分に振り分け、必要数に足りない区分を洗い出します。
- 狙う区分を決める:加算Ⅰ・Ⅱを狙うなら、キャリアパス要件Ⅳ(年収460万円)と職場環境等要件(全体14以上)のどちらで満たすかを選びます。
- 配分計画を作る:加算Ⅳ相当額の2分の1以上を毎月の給与に充てる前提で、誰にいくら配るかを決めます。
- 記録を残す:誓約で算定を開始する場合はとくに、実施の記録が実績報告の根拠になります。
要件の整備は労務、配分と会計処理は税務にまたがります。まとめて相談したい場合は障害福祉に強い税理士にご相談ください。
まとめ
処遇改善加算の3要件のポイントは、次の5点です。
- 3要件は、キャリアパス要件・月額賃金改善要件・職場環境等要件です。上位区分ほどキャリアパス要件Ⅲ・Ⅳ・Ⅴが積み上がります。
- 令和8年6月から、キャリアパス要件Ⅳの基準は改善後賃金年額460万円です(令和6年度改定時の440万円から引上げ)。
- 加算Ⅰ・Ⅱでは、職場環境等要件を全体から14以上満たすことでもキャリアパス要件Ⅳの代わりになります(選択制)。
- 月額賃金改善要件により、加算Ⅳ相当額の2分の1以上は毎月の給与で支給する必要があります。一時金だけは認められません。
- 令和8年度中の対応の誓約でも算定を開始できますが、未対応が確認されると加算額の返還対象になります。
要件の細部は改定で見直されます。計画書の作成前に、最新の要件・様式を指定権者の案内でご確認ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 処遇改善加算の3つの要件とは何ですか?
A. 処遇改善加算の3要件は、キャリアパス要件(任用・研修・昇給などの仕組み)、月額賃金改善要件(改善分の2分の1以上を毎月の給与で支給すること)、職場環境等要件(働きやすい職場づくりの取組)の3つです。区分Ⅰに近いほど満たすべき要件が増えます。
Q. キャリアパス要件Ⅳの年収基準はいくらですか?
A. 令和8年6月からは、改善後賃金年額460万円です。令和6年度改定時の440万円から引き上げられました。なお加算Ⅰ・Ⅱでは、職場環境等要件を全体から14以上満たすことでも代替できるため、年収460万円の職員を配置できないと上位区分が取れないわけではありません。
Q. 小規模事業所の「月額平均8万円以上」という代替要件はまだ使えますか?
A. 令和8年度改定の算定要件には、この代替要件は示されていません。代わりに、加算Ⅰ・Ⅱでは職場環境等要件を全体から14以上満たすか、キャリアパス要件Ⅳ(改善後賃金年額460万円)を満たすかの選択制が設けられています。適用にあたっては厚生労働省の資料と指定権者の案内でご確認ください。
Q. 加算でもらったお金は賞与でまとめて配ってもよいですか?
A. 全額を賞与でまとめて配ることはできません。月額賃金改善要件により、加算Ⅳ相当額の2分の1以上は基本給または毎月決まって支払われる手当で支給する必要があります。残りの部分は賞与・一時金で配ることができます。
Q. 要件を満たしていなくても加算を算定できますか?
A. 令和8年度は、一定の要件について年度中に対応することを誓約すれば算定を開始できる猶予措置があります。ただし実績報告書で対応の実施が確認され、未対応が判明した場合は加算額の一部または全部を返還させることとされているため、年度内に確実に整備する必要があります。
参考資料
- 厚生労働省|福祉・介護職員の処遇改善
- 厚生労働省|令和8年度障害福祉サービス等報酬改定における改定事項について(PDF)
- 厚生労働省|令和8年度障害福祉サービス等報酬改定について
- 厚生労働省|「処遇改善加算」の制度が一本化されます(障害福祉版リーフレット)
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執筆・監修:税理士 栗谷川 雄介(登録番号 第157826号)/Hands On会計事務所(税理士事務所・大阪府柏原市)
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